「個別指導」は、日々の請求・記録・運営を丸ごと見直す好機です。準備不足のまま当日を迎えると説明が噛み合わず指摘が増え、再指導や監査へ移行するリスクが高まります。本マニュアルは、**通知が届いた日から当日、そして“その後の日常運用”**までを一本の線でつなぐ実務書としてまとめました。院長が担うこと/スタッフが担うことを分け、チェックリストとテンプレートを豊富に掲載します。
個別指導とは?種類と選定基準をまず把握
集団指導・集団的個別指導・新規個別指導・個別指導の違い
- 集団指導:新規指定や基礎事項の周知。講義形式で、持参資料は最小限。
- 集団的個別指導:個別指導に準じた内容を複数医療機関で実施。資料確認が増える。
- 新規個別指導:新規開設・新規指定などで早期の適正化が目的。基本帳票と算定フローの確認が中心。
- 個別指導(本件):選定基準に該当した医療機関が対象。カルテ・レセプト・根拠資料を突合し、具体的な算定要件まで確認される。
選定基準(平均点が基準超え 等)と対象になりやすい医院の特徴
- 地域平均より1件あたり点数が高い、特定の加算・自費併用が突出している。
- 返戻・再審査が多い、審査側からの問い合わせが繰り返されている。
- 診療録の遅延出力、摘要欄の未記載など、形式面の不備が累積している。
まずは**「なぜ当院が選ばれたのか」を仮説立てし、準備の優先順位**を付けます。
通知が届いたら最初にやること
スケジュール逆算と提出物の全体像を確認
- 期日・場所・持参物を付箋で可視化(掲示板と共有ドライブの両方)。
- 逆算表の例:
- T-21日:選定患者抽出
- T-14日:カルテコピー完了
- T-7日:内部模擬指導
- T-3日:製本・封入
- 書類の章立て+通し番号:
- A:現況 / B:人員・資格 / C:施設基準 / D:診療録 / E:レセプト / F:各種記録
歯科保険医協会への連絡・弁護士/同席者の検討
- 直近の指摘トレンドや確認観点を入手。ひな形・想定質問集を取り寄せる。
- 同席者はレセプト・施設基準に強い職員を優先。弁護士帯同は医療実務に明るく、虚偽レビュー・クレーム対応経験がある人が望ましい。
院内責任者の役割分担とタスク管理
- 院長:方針決定・最終回答者。
- 事務/レセ担当:帳票作成・摘要テンプレ整備・レセコン検証。
- DH/DA:カルテ・X線・院内掲示の実物確認、滅菌・放射線等の記録取りまとめ。
- 進行役:全体WBS更新、リマインド配信、期限管理。
事前提出・当日持参の資料チェックリスト
様式(現況票・連絡票・業務/請求フロー等)の作成ポイント
- 現況票:医師・歯科衛生士・勤務時間、ユニット数、導入機器。
- 業務フロー図:受付→診察→会計→レセプトの流れをA4一枚で。
- 請求フロー図:診療録→レセコン入力→点検→電算請求→保存。ダブルチェック箇所を赤枠で明示。
選定患者カルテ・日計表・X線・資格免許写し・掲示物一式
- 選定患者カルテ:該当月以外にも前後関係が分かる期間を準備。レセプト月と診療日の一致確認は必須。
- X線:撮影理由・読影所見・線量管理簿。照射ボタンの権限運用も説明できるように。
- 資格免許・保険医登録票:最新写し。標榜科・個人情報保護方針などの掲示写真も。
- 日計表・領収書控:自費との按分が問われる場合があるため、分かりやすく仕分け。
施設基準関連の根拠資料と各種帳票の整備
- 届出書写し(外来環・歯周外科関連等)+要件の運用記録(実施件数、体制表、教育記録)。
- 感染対策:滅菌ログ、薬剤ロット、医療廃棄物契約書。
- 放射線:機器点検・性能検査記録、管理区域表示、従事者教育のメモ。
当日の流れとふるまい方
受付→資料点検→面接懇談→講評までのタイムライン
- 受付:案内状・本人確認・書類受領。
- 資料点検:リストに沿ってファイルを開示。欠落があれば“所在”のみ回答。
- 面接懇談:算定根拠・運用手順の確認。カルテ—レセプト—根拠の三点突合が軸。
- 講評:改善点・留意点の口頭説明。後日、書面が届く。
録音・議事録の取り方と回答の原則
- 録音可否は冒頭で丁寧に確認。不可なら要点メモ+復唱で齟齬を防ぐ。
- 回答の型は結論→根拠→補足。推測は避け、必要に応じて**「確認し、文書で回答します」**を使い分ける。
感情的対応を避けるための事前ロールプレイ
- よくある質問を想定して3回ロールプレイ。
- 禁句例:「うちはずっとこのやり方」「他院もしている」→根拠にならない表現は封印。
よくある指摘事項(歯科)
診療録の記載不備・署名押印漏れ・印刷遅延
- 日付・部位・処置名・薬剤量・指導内容の抜け。歯式や部位の取り違えに注意。
- 医師署名・押印の欠落。電子なら入力者と確認者を明確に。
- **印刷遅延(後日まとめ出力)**は、時系列が追えるログで補強。
摘要欄の未記載/誤記(算定要件の根拠不足)
- 加算・特掲の理由(検査実施、写真枚数、指導内容)を記載せず返戻。
- 例:外来環境加算の体制、CAD/CAM冠の適応、歯周基本検査の6点法など。
歯科疾患管理料(歯管)・義歯管理料・除去算定などの要件不足
- 歯科疾患管理料(歯管):継続管理の指導記録と検査結果が不足。
- 義歯管理料:装着後の機能評価・調整記録が抜けがち。
- 除去算定:同日再装着可否の判断、材料名・理由の記載不足。
指摘を減らす“レセプト運用”の作り方
摘要欄テンプレート集と算定要件チェック表
- 歯周基本検査:「6点法/P◯◯、BOP(+/−)、口腔内写真◯枚、指導◯分」
- CAD/CAM冠:「小臼歯/適応基準該当、咬合調整、装着日◯/◯、写真◯枚」
- 外来環加算:「感染対策体制届出済、滅菌ログNo.◯、スタッフ教育◯/◯実施」
- 除去:「◯◯冠破折のため除去、再製予定、理由患者同意済」
→ テンプレはレセコン辞書に登録し、入力漏れアラートを設定。
月次の内部監査(レセプト突合・カルテ突合)の実践
- 先月分から無作為抽出10件をカルテ—レセプト—X線で三点突合。
- 摘要の根拠(検査結果・写真・同意書)を確認。
- 返戻原因の共有と翌月の修正ルールを発表。
レセコンマスターとアラート運用の整備手順
- 同日算定不可・回数制限・期間制限をマスター化。
- 保存時に赤バナーで注意喚起し、**「要件記載がないと保存不可」**の運用を可能な範囲で導入。
- 更新履歴を月1で棚卸しし、スタッフへ周知。
新規個別指導・再指導・監査の違いと対応
新規個別指導で見られる観点と準備
- 体制が回っているか(担当者・フロー・ダブルチェック)。
- 施設基準の実運用(届出だけで終わっていないか)。
→ ひな形+実物(ログ・写真)を必ずセットで提示。
再指導・監査に移行させないための改善報告
- 講評で受けた指摘は30日以内に改善報告書を提出(Before/After、開始日、担当者、再発防止)。
- “やりました報告”で終わらせず、**結果指標(返戻率、摘要漏れ率)**を添える。
自主返還の要否判断と返還プロセス
- 要件不足で算定困難と判断した分は速やかに精査。額と根拠を整理し、手順に沿って返還。
- 同種の誤りが他月にもないか横展開で再確認。
相談窓口と外部支援の使い方
歯科保険医協会の支援メニュー
- 最新の指摘トピック、想定問答集、摘要例、個別相談。
- 勉強会のスライド・チェックリストは院内で転用してOK。
専門弁護士の帯同・見解書の活用
- 施設基準の解釈・同意書の妥当性など、法的見解書があると説明がスムーズ。
- 帯同の有無に関わらず、事前レビューだけでも効果大。
直前1週間の最終チェック
必要資料の再点検と持参物の封入
- **通し番号・インデックスシール・付箋「ここを見る」**で迷わせない。
- 予備のICレコーダー/電池、名刺、朱肉・サインペンもバッグへ。
院内掲示・動線・スタッフ説明の最終確認
- 標榜科・保険医療機関指定票・料金掲示の位置と更新日。
- 受付〜診療〜会計の動線説明をスタッフが1分で話せる状態に。
- 当日の担当配置表(電話・窓口・バックヤード)を整える。
まとめ|“指摘の出にくい”日常運用へ
翌月からの定例点検と改善サイクル
- 月例ミーティング(30分)
— 返戻率/摘要漏れ率/三点突合の結果を共有。 - チェックリストの更新
— 新しい指摘をテンプレ・マスターへ即反映。 - 教育の仕組み化
— **新人向け「算定要件カード」**を配り、朝礼で1枚だけ読む。 - “見せる化”
— 滅菌ログ・放射線管理・施設基準の記録はクリアファイルで常時整頓。
すぐ使える院内ミニチェックリスト
- 選定患者のカルテ・レセプト・X線が三点で揃っている
- 摘要欄に「理由・回数・写真枚数・指導内容」を記載
- 施設基準は届出書+運用記録の“二点セット”で提示できる
- レセコンに同日・期間制限アラートがある
- 月1で内部監査10件を突合している
- 改善報告は期限・担当・結果指標まで書く
個別指導は“怖いイベント”ではありません。日常運用を安全・正確にするための棚卸しです。今日からテンプレとフローを整備し、「いつ来られても困らない医院」=指摘の出にくい医院を目指しましょう。






