歯科衛生士の義歯調整は違法?──院長が知るべき法的リスクとコンプライアンス対策

義歯の「当たり」や痛みを患者が訴えると、つい衛生士がバーで削ってしまう――そんな光景は珍しくありません。しかし義歯調整は 歯科医師だけに認められた行為 で、衛生士が手を出すと歯科衛生士法と医師法に抵触します。過去には無資格調整が報じられ、院長まで処分を受けた例もあります。本稿では衛生士の業務範囲を整理し、違反時の罰則と回避策、デジタル技術で合法的に調整時間を短縮する方法まで、現場で即使えるポイントをまとめました。


歯科衛生士に許される業務範囲を再確認

絶対的歯科医療行為と相対的医療行為の違い

厚労省通知は「抜歯・形成・義歯調整など口腔形態を変える行為」を 絶対的医療行為 と定義し衛生士に禁じています。一方、歯石除去やフッ素塗布は 相対的行為 で、歯科医師の指示下なら実施可能です。

義歯調整が“絶対的医療行為”に該当する理由

義歯床や人工歯を削る行為は咬合や顎関節に影響を及ぼすため、医療行為の核心に触れ独占業務と解釈されます。


違法義歯調整が発覚した場合のペナルティ

歯科衛生士法・医師法違反で想定される罰則

無資格医行為は医師法17条違反で 2年以下の懲役または100万円以下の罰金。悪質なら免許取消もあり得ます。

監督責任を問われる院長・法人の行政処分

指示した院長は監督義務違反で個別指導や保険請求停止の対象となり得ます。レントゲン無資格撮影で法人が減点処分を受けた例もあります。


グレーゾーンを回避する3つの判断基準

  1. 指示の下とは?
    • 「術者が同一室内で即時確認できる状況」が指示。離席中の調整は違法。
  2. 患者訴訟に発展した過去事例
    • 衛生士単独の調整で顎関節痛が生じ賠償請求が認められた判例あり。
  3. インレー研磨との線引き
    • 仕上げ研磨は可、咬合を削る調整は不可とガイドラインで区別。

院内コンプライアンスを強化するステップ

  • 業務マニュアルに明記:「義歯調整は必ず歯科医師」。
  • チェックリストと記録:部位・削合量・術者をカルテに記載し、週次で院長が監査。
  • 研修・オンボーディング:新人講習に業務範囲テストを組み込み誤指示率ゼロに。

スタッフが違法指示を受けたときの内部通報体制

  • 匿名ホットラインや第三者窓口を設置し早期是正。
  • 報復禁止規定を就業規則に明文化し離職率を大幅低下。

患者満足度を保ちながら合法的に調整時間を短縮する方法

口腔内スキャナ+CAD/CAM導入

  • デジタルデンチャーで製作期間を1か月→1週間へ短縮。
  • 再調整率が低下し、3Dプリンターで紛失時も即再製作可能。

義歯専門技工士との外注連携

  • デジタルデータを即送信し院内調整を最小化、チェアタイムを平均15分短縮。

よくある質問(Q&A)

質問回答
義歯研磨はどこまでOK?形態を変えない研磨のみ可、削合は不可。
ドクター不在時の緊急対応は?痛点確認まで。調整は応急でも違法。
技能向上の実習は合法?模型や抜去歯牙での練習は問題なし。患者口腔内は不可。

まとめ|義歯調整違法リスクをゼロにする院内チェックリスト

  • 義歯調整は歯科医師のみとマニュアルに記載
  • 指示の定義(同室・即時確認)をスタッフ全員と共有
  • 調整記録をカルテに残し週次監査を実施
  • 匿名通報窓口と報復禁止規定を整備
  • デジタルデンチャー導入で再調整率を削減

このリストを守れば、義歯調整の違法リスクを排除しつつ、患者満足度と院内生産性を同時に高められます。