
診療当日のドタキャン――それは歯科医院の売上機会を奪うだけでなく、治療の質や患者体験にまで深刻な影響を与えます。平均キャンセル率が 18 % だった医院がリマインダー導入で 3 % まで低下し、年間 500〜1,000 万円 の損失を回避した例も報告されています。本ガイドでは「当日キャンセルをゼロに近づける仕組み」と「患者満足を損なわない運用」を両立するために、影響分析・法律・実践フロー・KPI 管理までを網羅。明日からスタッフ全員で実行できるテンプレート も掲載しました。
当日キャンセルが歯科医院に与える3つの影響
経営面:空き枠損失と人件費
無断キャンセルで空いた枠は直前では埋めづらく、ユニット稼働率の低下と固定人件費の無駄を招きます。1日2枠(各60 分)が空くと、月におよそ 20 万円 の粗利益が失われるとの試算もあります。
医療面:治療計画の遅延・再感染リスク
根管治療や虫歯処置を途中で中断すると再感染や抜歯の確率が急上昇し、最終的な治療費も通院回数も増大します。
信用面:他患者へのサービス低下
ドタキャン枠を埋めるための急な呼び出しや過密スケジュールにより、待ち時間の延長や対応品質の低下が発生し、口コミ評価に悪影響を及ぼします。
患者が当日キャンセルする主な理由
体調不良・急用
突発的な発熱や仕事の呼び出しは一定割合で発生します。この場合は 迅速な振替予約 がポイントです。
予約忘れ・時間勘違い
「前日連絡をしなかった患者のドタキャン率は 15 % 高い」とする院内データもあります。
不安・怖さによる来院忌避
初診カウンセリングで治療中断リスクを説明していない医院では、無断離脱が多い傾向が示されています。
当日キャンセル発生時の対応フロー
連絡があった場合のベストプラクティス
- 感謝:「ご連絡ありがとうございます」とまず労い、罪悪感を軽減する。
- リスク説明:治療延長による影響を簡潔に伝える。
- 即時振替提案:オンライン予約リンクを SMS で送り、30 秒で再予約完了。
無断キャンセルへのフォロー手順と再予約促進
- 当日 30 分経過時に 電話 → SMS → メール の順で三段階連絡
- 24 時間以内に リマインドメール+オンライン再予約ボタン を送信
- 48 時間過ぎても反応がなければ キャンセル理由アンケート を自動送信
治療中断によるリスクを患者に伝えるコツ
虫歯・根管治療が悪化するケース
根管内の細菌が再増殖し抜歯率が上がる事実を、写真や模型 で示すと理解度が向上します。
治療費・通院回数が増えるデメリット
治療中断が半年続くと、補綴や再根管治療で平均 2〜3倍 の費用が発生する例を提示すると来院動機が高まります。
キャンセル料は請求できる? 法的根拠と設定相場
自由診療と保険診療での違い
自由診療は患者との個別契約に基づきキャンセル料を設定できますが、保険診療は療養担当規則上「診療報酬以外の一方的請求」は慎重な運用が求められます。
消費者契約法で求められる「妥当性」と説明義務
消費者契約法9条の趣旨を踏まえ、医院側損害を超える高額キャンセル料は無効。診療費の 50〜100 % または 30 分5,000 円 程度が上限目安とされています。
キャンセルポリシーの作り方と院内への周知
同意書・掲示サンプル
受付ラインで署名を求める「診療予約とキャンセル規定」には、次の3項目を明記しましょう。
- 連絡期限
- 無断時の対応
- キャンセル料算定式
ウェブサイト・SNSでの告知ポイント
トップページと予約完了メールの両方にポリシー URL を配置し、リマインド SMS にも一文を入れるとトラブルが激減します。
当日キャンセルを減らす5つの仕組み
- SMS・メールリマインダー
自動送信システムで予約前日に配信し、キャンセル率を 18 % → 3 % へ低減した事例あり。 - オンライン予約&キャンセル待ちシステム
空き枠をリアルタイムで他患者に開放し、稼働率を維持。 - 時間厳守への感謝フィードバック
来院時に「○○さん、時間厳守ありがとうございます!」と声かけを行うとリピート率が向上。 - スタッフ教育とロールプレイ
初診カウンセリングでリスクとポリシーを伝えるロールプレイを毎月実施した医院で無断率が半減。 - 患者啓発コンテンツの活用
ブログや待合動画で治療中断リスクを啓蒙し、キャンセル率を 3 ポイント改善した例あり。
キャンセル率と損失額の計算方法
- 無断キャンセル率(NCR) = 無断キャンセル件数 ÷ 総予約件数 × 100
- トータルキャンセル率(TCR) = 全キャンセル件数 ÷ 総予約件数 × 100
- 月間損失額 = 平均診療単価 × 当日キャンセル件数
例:月200件予約、単価 8,000 円、無断5件・当日連絡3件の場合
NCR = 5 ÷ 200 × 100 = 2.5 %
TCR = 8 ÷ 200 × 100 = 4.0 %
損失額 = 8,000 × 8 = 64,000 円
目標は NCR 1 % 未満。週次集計 → 月次カンファレンスで PDCA を回します。
よくあるトラブル事例と解決策
キャンセル料を拒否された場合
請求根拠(損害算定式)を記載した同意書コピーを提示し、分割払い提案 まで用意すると約8割が支払いに応じたとの報告があります。
繰り返す患者への段階的対応
- 口頭注意
- 書面注意
- 次回予約制限
- 転院勧告
エスカレーションを明示した医院では再犯率が大幅に減少しました。
まとめ|患者満足と医院経営を守るキャンセル対策チェックリスト
- 初診時にキャンセルポリシー同意書を取得した
- 前日 SMS リマインダーを自動化した
- キャンセル待ちシステムで空き枠を即時充填できる
- スタッフが治療中断リスクを模型で説明できる
- 毎月 NCR・TCR・損失額を数値レビューしている
- トラブル時のエスカレーションフローを共有済み
キャンセル対策は 「罰則」ではなく「互いの時間と健康を守る仕組み」 です。本ガイドを参考に、経営数値と患者満足の両立を実現してください。